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インボイス制度は誰が決めたのか〜導入された経緯と背景〜

こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。

いよいよ2023年の10月からインボイス制度がスタートします。

SNSなどでいろいろな意見を目にしますが、中には

・税制を複雑にして仕事を増やしたい税理士のせい

・増税したい財務省のせい

みたいな的外れなものもあるんですよね。

個人的にはインボイス制度には反対ですし、多くの税理士は同意見だと思います。ちなみに、日本税理士会も税制改正の要望においてインボイス制度には一貫して反対しています。

また、財務省が増税のためと言うのは一見それっぽく聞こえますが、実はこれも嘘なんです。

「じゃぁ誰が決めたのよ?」って思いますよね。

今回はインボイス制度が導入される経緯についてお話ししたいと思います。

消費税増税までの流れ

インボイス制度の導入には消費税の増税と軽減税率の導入が背景にあります。

まず、2012年6月に民主党、自民党、公明党の三党合意がなされ、社会保障の財源確保のために消費税率の引き上げの方向性が定まりました。

これを踏まえて2012年8月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」というものが成立します。

法律の名前がやたら長いのですが、ざっくり説明すれば「社会保障の財源確保のために税制改正を進めましょう(基本的に増税)」という法律です。

この法律に基づいて消費税率の引き上げが決まったわけですが、10%になるまでには紆余曲折がありました。

時系列で見てみましょう。

・2014年(H26年)4月 → 8%実施

・2015年(H27年)10月 → 10% 延期

・2017年(H29年)4月 → 10% 延期

・2019年(R1年)10月 → 10%実施

ご記憶がある方も多いと思いますが、実は10%になるまでに2回延期されています。

この間に様々な議論がなされてインボイス制度の導入に繋がる訳ですが、その辺りを詳しく見てみましょう。

2012年に発表された「平成25年度税制改正大綱」では「消費税率の10%引き上げ時に、軽減税率制度を導入することをめざす」という記述に留まっています。

つまり、この時点では10%に引き上げられることは確定していますが、軽減税率やインボイス制度の導入自体は決まった訳ではありませんでした。

軽減税率とインボイス制度は誰が導入したのか

提案したのは公明党

結論から申し上げると、軽減税率を主張したのは公明党です。

2013年11月29日の公明新聞などによると

・軽減税率は欧州で長く実施されてきた実績があり、日本で導入が不可能ということはあり得ない

・免税事業者からの控除を認める仕組みは維持するため、免税事業者が取引から排除されることはない

・システム導入や改修の影響はそれほど大きくはない

などと主張されています。

実際には免税事業者が排除されると大騒ぎしていますし、システム改修に急ぐ事業者も多いんですけどね。

今後も公明党は一貫して軽減税率の導入を主張し続けることになります。

軽減税率やインボイスに対する反応

それでは、政府や財務省は軽減税率やインボイス制度に対してどのようなスタンスだったのでしょうか。

資料などを読み解くと、少なくとも積極的に導入しようとはしていなかったことがよく分かります。

以下でいくつかご紹介します。

・2011年12月税制調査会「社会保障改革案に対する意見」

集中検討会議では、消費税率の引上げは特に景気後退にはつながらない、軽減税率は設けるべきではないという意見のみだった。税調で議論が深まることを願っている。

・2013年与党税制協議会「軽減税率についての議論の中間報告」

対象、品目の線引きが困難であり、課税の中立性が損なわれる。また、なし崩し的に軽減対象が広がれば、国民の日常生活に大きな混乱を招くおそれがある。

複数税率の導入は特定分野に恩典を与えることとなり、政治的恣意性の問題がある。また、 特定分野への恩典が社会的不公平感を拡大させるおそれがある。

少なくとも消費税率が 10%の段階までは単一税率を維持するべき。軽減税率は税率が 10%を超えた段階における検討課題。

インボイス導入により、事務処理能力のない 500 万にも及ぶ免税事業者が取引から排除されることになり、大変な問題。課税事業者にならざるを得ないとなれば、中小企業の事務処理負担の軽減を図るという免税点の制度趣旨はまったく失われてしまう。

・2013年12月5日財務省主税局「複数税率における納税事務等に係る制度等について」

免税事業者に新たに義務を課すことについての消費税法における法制上の妥当性・整合性には疑問がある。

国税当局が適切な指導・監督を行うことには限界がある。適正な執行が担保されなければ益税の温床になりかねない。 

制度の導入は政策上の判断であり、法制上または法技術上不可能ではない。

なぜインボイス制度が導入されたのか

基本は軽減税率を導入すれば、取引ごとに税率が異なる可能性があるため請求書等に記載する内容を細かく定める必要が生じます。

スーパーで食料品と雑貨を一緒に購入した場合などがこれにあたります。

売り手と買い手の認識がズレると消費税の計算が狂ってしまうので、正しい税率を表記して、取引に含まれる消費税額を正確に記載しようということになった訳です。

そのため、基本的には軽減税率の導入とインボイス制度はセットで考える必要がある訳です。

ただ、いきなり導入すると混乱が大きいため、準備期間を設ける意味で軽減税率とインボイス制度の導入時期がズレたというだけです。

上記でもご紹介したように、自民党はもちろん財務省ですら後ろ向きだった軽減税率とインボイスですが、2015年に決定的な事件が起こります。

2015年11月17日の産経新聞によると、軽減税率について公明党は

生活者目線の公明党が暮らしに関わる話で譲歩すれば、来年の参院選は戦えない。

できるだけ幅広い品目を対象とし、国民の理解が得られる制度の実現に全力で取り組む。

などと述べており、連立解消もチラつかせたようです。

その結果、2015年発表の「平成28年度税制改正大綱」で軽減税率の導入とインボイス制度の導入が明記され、今に到るという訳です。

つまり、インボイス制度の導入は8年前から決まっていたことであり、税理士は「これは大変なことになる」と分かっていた訳です。

ただ、メディアなどで大きく取り上げられることは皆無だったため、導入直前になって大騒ぎになったというのが本当のところです。

まとめ

このタイミングでインボイス制度に対する賛否を議論しても導入されることに変わりはなく、あまり意味はありませんが、導入の経緯を知っておいた頂きたいと思いまとめてみました。

「税制を複雑にするのは税理士の既得権益のため」という意見も目にすることはありますが、多くの税理士は制度の複雑化など望んでいないということを知っておいて頂ければ。

もちろん、決まった以上はクライアントのために色々考えて対応するんですけどね。

関連記事

・インボイス制度の概要について

参考 インボイスを理解するために消費税の仕組みを知っておこうソーシャル税理士金子尚弘のページ

・インボイス制度と2割特例について

参考 インボイス登録で簡易課税を選ばない方が良い?〜2割特例の落とし穴〜ソーシャル税理士金子尚弘のページ

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