こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。
会社員で副業をしている方も増えており、確定申告で悩む人もいると思います。
特に「事業所得なのか雑所得なのか」という部分は正確に理解していないと間違った判断をしてしまうことも。
混乱が生じている原因として事業所得か雑所得かの判断が専門家でないと難しいというところがあります。
そこで、所得税法の通達を改正して所得区分の判断を分かりやすくすることになりました。
執筆時点ではパブリクコメントの募集中ではありますが、ほぼ確実に決定されると思います。
事業所得と雑所得の区分についてはこちらの記事で解説していますので、前提の知識として確認して頂ければ。
参考 個人事業主が副業をする場合の取り扱い〜事業所得か雑所得かで税額が変わります〜ソーシャル税理士金子尚弘のページこの記事では改正内容や今後の申告の注意点などについて解説していきます。
改正に至る背景
改正の背景
まず、改正の背景として昔は存在しなかった新しいビジネスが登場していることや、副業での申告が増えていることがあります。
例えばネットビジネスでは店舗も不要ですし、ホームページを持たずにSNSで集客して利益を上げている人も多くいます。また、個人の車を貸し出すことができるサービスなど、追加の投資をせずに副業を始められる環境が増えています。
このように、新しいビジネスでは過去の事例から事業所得か雑所得かを判断することが悩ましいこともありますし、副業の確定申告では税理士に依頼しない場合も多く、個人で判断しやすい基準を作ることも必要だったと思います。
【参考】国税庁の資料から、改正の背景を抜粋
シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告をしていただくための環境づくりに努めているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題がありました。
何が問題だったのか
一言で言えば「本来は雑所得の人が事業所得で申告すると税金が安くなる」という問題がありました。
事業所得であれば
・青色申告特別控除
・損益通算
が認められています。
青色申告特別控除は最大で65万円の控除があるので、その分だけ所得が少なくなり税金も減ることになります。
また、損益通算は事業所得が赤字の場合に給与などと相殺することができるので、会社員の収入に対する税金が還付されることになります。
本当に事業所得として扱うべきものであれば問題ないのですが、片手間の副業程度の人が生活費なども経費に入れて脱税まがいの行為が行われている実態があるのが事実です。
こういった行為を防止するために、一定以上の売上がなければ事業所得としないという改正に繋がったといえます。
改正案の内容
今回の改正案の内容は「本業の収入がある人で副業の売上が300万円以下の場合、基本的に雑所得として取り扱う」というものです。
それぞれポイントを整理してみましょう。
・本業の収入がある
既にお話ししたように想定されているのは会社員の副業ですので、お給料など主な収入がある人が副業を行っている場合が対象ということです。
そのため、個人事業主の方が売上が減って300万円を下回ったとしても雑所得になる訳ではありません。
・副業の売上が300万円以下
ほとんどの副業が対象になりますので、年間の売上金額で判定することとなります。
ただし、不動産投資については収入金額にかかわらず不動産所得として申告するため、300万円以下であっても雑所得になることはありません。
【参考】国税庁の資料から、改正内容を抜粋
業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。 また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上 事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得で なく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。
なお、この改正は令和4年分の所得税から予定されていますので、注意してください。
注意すべきポイント
今回の改正はあくまでも通達であり、法律そのものが変わった訳ではありません。
通達は法律をどう解釈・運用するかの指針なので、事業所得の定義そのものは何ら変わりません。
事業所得は
・事故の計算と危険において独立して営まれているか
→リスクを取ってビジネスをしているか
・営利性や有償性がある
→利益が目的であり、ボランティアではない
・反復継続している
→単発のイベントなどではなく、継続的にビジネスをしている
・社会的地位
→お店やHPなどがあるか、など客観的にビジネスをしているか分かるか
などの要件を満たすものとされています。
つまり、副業の売上が300万円を超えたら自動的に事業所得になる訳ではなく、これらの条件を満たしているという前提が必要になる訳です。
例えば専業主婦の人であれば
・本業の収入がある
・副業の売上が300万円以下
という条件のうち「本業の収入がある」を満たさないので雑所得ではなく事業所得として認められるかというと、必ずしもそうとは言えません。
「ほとんどの時間を家事や育児に費やしていて空いた時間に少し仕事をしている」という程度では雑所得と判断するのが妥当でしょう。
これは絶対ダメ〜循環取引や架空取引〜
300万円という基準ができることになるので、「300万円を超えるようにすれば事業所得になるんでしょ?」と考える人も出るかもしれません。
これは既にお話ししたように間違いなんですが、売上を増やすために仲間内で架空の仕事を回すというような行為は絶対にNGです。
例えば、売上200万円の人達で110万円の仕事を発注し合い300万円を超えるようにする、みたいなものですね。
それぞれ110万円の売上と経費が発生するので利益は変わりませんが、売上の金額は200万円から310万円に増えることになります。
もちろん、実体のある仕事で妥当な金額であれば問題ないのですが、そう都合の良い話ばかりではないですよね。
副業系のオンラインサロンなどでこのような手法が案内されるかもしれませんが、仕事の実態がなければ架空取引として否認されます。
そうなれば、結果的に事業所得ではなく雑所得として認定されるので、追徴課税が待っているということになるでしょう。
まとめ
副業そのものは何も悪いことではないですし、収入源を増やすことはむしろ望ましいことです。
ただ、これに伴って節税策と称した脱税スキームが横行してしまったこともまた事実です。
今回の改正で一つ対策が打たれた訳ですが、いたちごっこのようにまた怪しい「節税策」が広まるかもしれません。
こういった話は税理士ではなく「少し税金を聞きかじった素人」が考えているもので、当然ながら問題が起きても責任を取ってはくれません。
事業所得の定義をしっかり理解した上で、正しく判断して申告するようにしてください。
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