こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。
体脂肪計やタニタ食堂で有名なタニタが社員の個人事業主化を打ち出しています。(参考記事はこちら)
副業解禁どころか「社員を個人事業主にしてしまおう」というこの取り組み。
果たして問題はないのか、会社側のリスクを考えてみようと思います。
まず、会社と元社員が合意すれば、「業務委託」として契約をして業務を行うことは可能です。
ただし、実質的に社員と同じような条件で働いている場合には色々な問題が発生します。
具体的には、
・労働基準法に抵触する可能性がある
・支払った業務委託料が税法上は給与として取り扱われる可能性がある
といったところです。
それでは、会社側が気を付けるべきポイントを詳しく見てみましょう。
なお、働く側の目線では次の記事でご説明しています。
参考 正社員から個人事業主への転換は要注意〜デメリットをしっかりと理解しよう〜ソーシャル税理士金子尚弘のページContents
労働基準法に抵触する可能性がある
労働基準法では労働時間や賃金、休日などが定められています。
もちろん、会社と従業員という関係が前提となる法律ですが、この労働基準法は「強行規定」という性質のものです。
強行規定というのは、「会社と従業員が合意していたとしても労基法を満たさない労働契約は無効ですよ」というものです。
例えば、会社と従業員が
・時給は200円
・1日の労働時間は16時間
・休みは月に1日
という労働契約を結んだとします。
この労働契約は「会社と従業員の双方が納得しているならOK」となるのでしょうか?
答えはNOです。
こんなことを認めてしまっては、立場の弱い人に対して実質的に奴隷のような労働を強いることが可能になってしまいます。
なお、労働基準法の対象となる従業員かどうかは、当人同士が結んだ契約書ではなく、労働の実態を捉えて判断します。
そのため、業務委託契約に切り替えた後であっても9時にタニタの事務所に出勤して18時頃まで勤務している、ということであれば実質的には雇用契約とみなされる可能性もあります。
通常の勤務時間であれば最低賃金を下回るなんてことはないでしょうが、社会保険の加入や残業手当、有給休暇、産休・育休などの問題は残ることになるでしょう。
業務委託料が税法上は給与として取り扱われる可能性がある
まず前提として、会社が支払う給与と業務委託料の違いを整理しておきましょう。
給与 | 業務委託 | |
社会保険 | 加入義務あり | 加入なし |
源泉徴収 | 必要 | 業務によって要否が異なる |
年末調整 | 必要 | 不要 |
消費税 | 掛からない | 掛かる |
このように、給与か業務委託かで取り扱いが大きく異なります。
それぞれの項目をもう少し詳しく見てみましょう。
社会保険
正社員であれば厚生年金・健康保険への加入が必要ですので、本人負担に加えて会社も社会保険料を負担する必要があります。
一方で業務委託であれば個人事業主ですから、国民年金・国民健康保険に全て本人負担で加入することになります。
会社としては、業務委託の方が社会保険料の負担がない分、経費の節約に繋がります。
源泉徴収
給与の場合は、支払う給与に対して一定額の源泉徴収が必要になります。
一方で業務委託の場合は業務内容によって源泉徴収が必要かどうか異なります。
業務委託の源泉徴収についてはこちらの記事をご覧頂ければ基本的な部分はご理解いただけると思います。
参考 源泉所得税の仕組みとは?〜「個人事業主は必ず源泉される」は間違い〜ソーシャル税理士金子尚弘のページ源泉徴収については、支払額から天引きするシステムなので、会社の負担としては特に変わるものではありません。
年末調整
従業員であれば年末調整は必要ですが、業務委託であれば年末調整の対象にはなりません。
会社としては年末調整なんて面倒なだけで1円も儲からない作業なので、対象者が減るのは嬉しいことかもしれません。
消費税
従業員に対する給与には消費税が掛かっていませんが、業務委託料には消費税が掛かります。
例えば、給与と業務委託料の支払い総額がそれぞれ540万円だとします。
この場合、業務委託料には40万円の消費税が含まれており、会社が納付する消費税から差し引くことができます。
(要するに、納める消費税が40万円少なくなる)
会社としては、総額が同じであれば業務委託の方が消費税の納税額が少なくなるので有利と言えます。
「実質的には給与」と言われるとどうなるか?
業務委託契約を結んでいたとしても、実質的に給与と指摘されるとどうなるのでしょうか?
まず、「実質的に給与」と見られるポイントですが、次の記事で解説しています。
参考 バイトと業務委託の境界線〜給与か報酬か〜ソーシャル税理士金子尚弘のページこのような目線で判断した結果「実質的には給与」と判断されるとどうなるのでしょうか。
結論から言うと、次のような負担が発生します。
・過去に遡って社会保険料を納付
雇用契約ということは社会保険が必要となるので、追加の納付が必要となります。
・消費税の追加納付
消費税を差し引いて計算した分が「無かったこと」になるので、追加納付が必要となります。
・源泉所得税の追加納付
源泉所得税についても、給与として源泉徴収するべき金額を納付し直すことになります。
要するに、「給与として計算した状態に直して必要なものを支払う」というイメージです。
当然ながら延滞税などのペナルティも課されることになるので、本来の金額以上の負担が発生することになります。
安易に「従業員っぽい業務委託」をしてしまうと、後で思わぬしっぺ返しを受けることになるかもしれません。
まとめ
タニタがどのような形で業務委託として仕事を発注するのか詳細は分かりませんが、元社員に対して社員時代と同じような業務を発注するというのは、給与として認定されるリスクもあると思います。
(大企業なので、理論的な主張を考えているのでしょうが)
給与か業務委託か、というのは過去からいくつものトラブルが発生しており、税務的にも「実質的には給与」と認定されている例が多いです。
安易に社員を業務委託に変更してしまうと、後から思わぬ負担を求められる可能性があります。
給与か業務委託かというのは「トラブルになるリスクがある」という認識を持って、検討する際は専門家に相談しながら決めて行くことをお勧めします。
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