こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。
国民民主党は103万円の壁の引き上げに続き、給付税額控除を導入を求めるという報道がされています。
具体的な提案の詳細は分かりませんが、「日本版ベーシックインカム」として衆院選のマニフェストにも記載がありました。
マニフェストも踏まえてどのような狙いがあるのか、また、そもそも給付税額控除とはどのような制度なのかを解説していきます。
所得税の計算の仕組み
給付付き税額控除の意味を理解するためにも、所得税の計算がどのように行われているかを整理します。
給与所得や事業所得等10種類の所得がありますが、それらを合計したものが総所得金額です。
そこから所得控除を差し引いて、課税所得金額を求めます。なお、所得控除には基礎控除や扶養控除などがあります。
この課税所得金額に対して5%から45%の税率をかけて、所得税の金額を計算します。
この所得税の金額から税額控除を差し引いたものが実際の納税額となります。現在の制度では、税額控除には寄付金控除や住宅ローン控除などがあります。
この計算を図で示すとこのような形になります。
所得控除と税額控除の違い
まずは所得税の計算の仕組みをざっくり解説しましたが、控除の項目には所得控除と税額控除があります。
では、所得控除と税額控除は具体的にどのように違うのでしょうか。
大きなポイントとしては、所得控除は高所得者ほど減税のメリットが大きいという点です。
これは、総所得金額から所得控除を引いて課税所得金額を計算するため、元々の所得が大きい人ほど税率の高い部分の所得が減少するからです。
例えば、総所得金額が1000万円の人と300万円の人が48万円の基礎控除を受けたとしても、減税される額はそれぞれ158,400円と48,000円となります。
これは所得金額が1000万円の人の適用税率が33%で、300万円の人の適用税率は10%だからです。
一方で、税額控除は計算された所得税の金額から差し引くため、所得による有利不利はありません。
例えば税額控除が10万円であれば、元の所得がいくらの人であっても減税額は10万円になるからです。
税額控除の問題点
税額控除の特徴は、所得控除とは違って高所得者ほど有利になる訳ではないという点です。
しかし、そもそもの所得税の金額が少ない場合には、税額控除のメリットを受けられない可能性があります。
例えば、もともとの納税額が7万円の人がいたとします。
この人に対して10万円の税額控除の枠があったとしても、税金が減るのは7万円で残りの3万円は切り捨てられてしまいます。
そのため、元々の税額が少ない人にとっては税額控除も十分な恩恵を受けることはできないというデメリットがあります。
給付付き税額控除の特徴とは
このような問題点を解消するのが給付付き税額控除という制度です。
給付付き税額控除の特徴は、税額控除で引ききれない部分を切り捨てするのではなく還付するという点です。
先ほどの例で言えば、ただの税額控除であれば減税額は7万円ですが、給付付き税額控除では7万円は税額控除され、残りの3万円は給付されるということになります。
給付付き税額控除は、アメリカやイギリス、韓国など多くの国で採用されていますが、細かな制度は国によって異なっています。
諸外国の制度を見ると①労働者へのインセンティブ、②子育て支援、③消費税の負担軽減、など目的によって対象者や控除される税額が変わります。
労働者へのインセンティブ型では、一定以上の労働(給与額や労働時間)をしている人を対象に税額控除を設定し、働かない人には恩恵が出ないような制度設計になっています。
子育て支援型では制度の対象を子育て世帯に限定して、児童手当のような位置付けで運用されます。
消費税の負担軽減型では幅広い対象者が給付付き税額控除を受けられるようになっています。
まとめ
現行の所得税では、所得控除と税額控除がありますが、所得控除では高所得者が相対的に有利になり、税額控除では元々の税額が少なければ恩恵を受けられない可能性があります。
このような問題点をクリアするための一つの選択肢が給付付き税額控除という訳です。
国民民主党のマニフェストでは「日本版ベーシックインカム」とも書かれているため、対象者を限定せずに導入することを考えているのかもしれません。
仮にそうだとすれば、還付を受けるために国民全員が確定申告をしなければならないのか、あるいは定額減税の調整給付のように自治体と情報共有をしながら還付は自治体が行うのかなど制度設計については課題も多いと思います。
また、対象者の幅が広いのであれば、全国民に一律の給付を行った方が効率的で分かりやすい可能性もあるでしょう。
いずれにしても大きな税制上の転換となる制度ですし、日本で導入を検討する場合には、どのような目的で実施するのかを整理することが第一歩なのではと思っています。
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