こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。
最近ニュースなどで1億円の壁という言葉を耳にされた方もいると思います。
以前から財務省などが指摘している内容で、ざっくり言えば所得が1億円を超えると税金の負担率が下がるという話です。
これを鵜呑みにして「所得が高いのに税金が優遇されていてけしからん」という意見もあると思いますが、そんな単純な話ではなかったりします。
今回は、1億円の壁が発生する仕組みや、自民党などが検討している高所得者に対する増税等への問題点について解説したいと思います。
1億円の壁の仕組み
まず、なぜこのような現象が発生するのかを説明します。
所得税には大きく分けて
・総合課税
・分離課税
の2種類があります。
給料や個人事業の収入は、総合課税として累進課税が適用されます。累進課税というのは所得が増えれば税率も上がるという制度ですね。
一方で株式や不動産の売却などは分離課税となっており、税率は所得にかかわらず一定となっています。(株の売却の場合は所得税と住民税を合わせて20.315%です)
ちなみに、累進課税の税率は次のようになっています。(所得税だけでなく住民税も課税されるので、これに10%を足した数字が課税される税率です)
所得4000万円以上の場合は所得税45%、住民税10%の合計55%の税率となります。(復興税は考慮していません)
そのため、高額の役員報酬を受け取っている場合は最高税率となり55%が課税されることとなります。
一方で、株の売却で多額の利益が出たとしても税率は約20%ですので、負担する税金が大きく変わるという現象が発生します。
こんな図を見たことがある方も多いでしょう。
所得が1億円を超える方は株の売却収入などが多く、所得1億円以下の方よりも負担する税率が低くなることがあります。これが1億円の壁と言われる問題です。
増税すれば解決するのか
自民党などからは株の売却等の収入について高額の所得となる場合は増税をするという案が出ているようです。
しかし、個人的には一定のラインで線引きして税率を引き上げるという対応は問題が大きいと思っています。
その理由としては、分離課税の特徴にあります。
株の売却については一定であるため、優遇しているように感じるかもしれません。しかし、株の売却では利益が出る人ばかりではなく損している人も存在しますよね。
利益については一定の税率で優遇されているように感じるかもしれませんが、株の売却で損失が発生しても給与や事業等の損益通算は認められません。
他に株の売却駅があれば損益通算は可能ですが、そうでなければ損失は切り捨てられて終わりと言うことになります。
そのため、株の売却の税率を段階的に引き上げるなど累進課税のような制度を取り入れるのであれば、株の損失の損益通算を認めるなどの手当ても必要ではないかと思います。
増税のラインをいくらの所得にするかは結局のところ政策的な意図で決められるため、理論的な説明は難しいでしょう。
増税されたら対象になるのはどんな人?
そもそも、株の売却で何億円と利益を出す人はどういった人なんでしょう。
いろいろなパターンはあると思いますが、典型的なものは次の2つだと思います。
①相続対策での組織再編
② M&A
まず、相続対策での組織再編ですが、持ち株会社等を設立して株価評価を引き下げるという方法があります。もちろん、相続対策という理由だけでは否認される可能性があるので、経済的な合理性があるなどの説明は必要になりますが。
また、M&Aですが事業が成長して大企業に買収されるパターンや、後継者不足から親族以外に株を売却するなどのパターンがあります。
M&Aでの株の売却価格は当事者同士で決定することとなるため、事業の評価が高ければ買収金額も高くなります。そのため、事業内容が良い会社ほど売却の際に多額の利益が出る可能性があります。
これらの取引は、多くの人にとって一生に一度あるかないかだと思います。
一時的な所得の例として、他にも退職所得や一時所得がありますが、これらは他の所得に比べて税額が低くなるように設計されています。
このように、一時的な所得については税金を負担する能力が低いと考えられているため、株の譲渡に対してのみ増税をすると言うのはバランスが取れないのではないでしょうか。
まとめ
1億円の壁の報道を読んでいると、財務省の主張をそのまま伝えているような感じもします。
もちろん公式発表を基に記事を書いているので、仕方ない部分はあると思いますが。
近年では配偶者控除に対する所得制限が入ったり基礎控除も高所得者では適用されないなど、理論的な根拠を無視した増税策が増えている気がします。
「金持ちはもっと税金を払えば良い」という気持ちも分からなくもないですが、理論的に説明できない改正が続けば庶民にも影響するような無茶な改正が入るとも限りません。
短絡的な高所得者いじめのような税制にならないように願っています。
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