こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。
「賃上げを幅広く実現させるための政策コンテスト」が内閣府によって実施され、その結果が発表されました。
その中で、優勝作品の一つに「会社員の残業部分を個人事業主化する」というアイデアがあり、こんなスライドです。
このアイデアは、定時までは正社員として働き、それ以降は個人事業主として業務委託を受けるというものです。
これにより、残業部分の報酬には社会保険料が発生せず、青色申告特別控除などで従業員の手取りが増えるというアイデアです。
また、会社側も社会保険料の負担が減り、消費税の仕入れ税額控除が発生するので、コストを削減できるというのがポイントです。
一見すると、会社も従業員もWin-Winのアイデアのように見えますが、実際には法的リスクを無視した話です。
ここから、税務・社会保険・労務の観点からこのアイデアの問題点を説明します。
税務の問題点
結論から言えば、ほぼ100%税務署から否認されます。
基本的には、会社からの指揮監督の下で業務をしている場合には、仮に業務委託契約を結んでいたとしても税務上は給与とみなされます。
実態は従業員とほぼ同じなのに業務委託契約を結んでいるのは、実はよくある話なんですよhね。
ただ、このような事例は税務調査で発覚すれば、ほぼ100%否認されます。
ましてや今回のアイデアでは、従業員が定時を境に扱いが変わるだけであり、実態として何ら働き方は変化していません。
働く場所も変わらず、会社の備品を使って会社の指示に従って仕事をしている。こんなの完全に給与課税されて終わりです。
また、否認された場合には
・源泉所得税の納付漏れ
・消費税の仕入税額控除の否認
というダブルパンチが待っています。
まず、お給料に対しては源泉徴収をする必要があるため、給与としてみなされると本来の金額よりも実際に源泉徴収した金額が少なくなります。
源泉所得税は会社が税務署に納税するため、納税額が本来より少なくなり、追徴課税が発生してしまいます。
また、その源泉所得税は本来は従業員が負担するものなので、過去にさかのぼって会社から従業員に請求されることになります。(その従業員が退職している場合には会社が負担するケースもありますが)
続いて消費税の仕入税額控除ですが、お給料には消費税がかかりませんが、業務委託にはかかります。
そのため、会社側は支払った金額の10%を消費税から引くことができ、消費税の納税額がその分少なくなるという仕組みです。
しかし、給与としてみなされれば消費税を引くことができなくなるので、消費税も追加で納税する必要が出てきます。
社会保険での問題点
現行制度では、会社員は2号被保険者という区分になります。
2号被保険者は会社からのお給料をベースに社会保険料が決まりますが、副業収入があっても社会保険料には加算されません。
そのため、定時までの給与部分と残業代を業務委託として支払えば、社会保険料が圧縮でいるナイスアイデアに思えますよね。
ただ、実態が雇用である限り、不正に社会保険料を圧縮しているみなされるのがオチでしょう。
労務面での問題点
いくら契約上業務委託にしたとしても、実態としては従業員として残業していることになります。
そのため、会社としては基本給に25%を加算した残業代を請求される可能性があります。
特に業務委託の時給が残業代に満たない場合にはそのリスクが高くなるでしょう。
さらに、残業部分を業務委託とした場合には、残業中に事故などが発生しても労災保険が適用されない可能性があり、従業員にとって大きなリスクとなります。
まとめ
このように、税務、社会保険、労務の面から見てリスクが高すぎて、実際には活用できないアイデアです。
法人保険の営業経験がある人が考えた提案らしいですが、関連知識が不足しており、お粗末な提案と言わざるを得ません。
また、内閣府がこのアイデアを優勝させたことも正直驚きました。
これは脱法スキームに近く、企業側にも個人側にもリスクしかない提案を優勝させるとは、審査員は何を見ていたのかなと…
世の中には怪しい節税策や手取りを増やす方法が溢れていますが、まさか内閣府が優勝させてしまうとは。
企業や個人の皆さんは、このようなアイデアを鵜呑みにしないように注意してください。
そもそも手取りを増やすためには社会保険料の負担を軽減する必要がありますし、こんな小手先のアイデアではなく、もっと根本的な改革が必要だと思いますけどね。
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