こんにちは、ソーシャル税理士の金子(@innovator_nao)です。
会社員で副業をしている方も増えており、確定申告で悩む人もいると思います。
特に「事業所得なのか雑所得なのか」という部分は正確に理解していないと間違った判断をしてしまうことも。
混乱が生じている原因として事業所得か雑所得かの判断が専門家でないと難しいというところがあります。
そこで、所得税法の通達を改正して所得区分の判断を分かりやすくすることになりました。
パブリックコメントを踏まえて当初の案から修正され、2022年10月7日に公表されました。
事業所得と雑所得の区分についてはこちらの記事で解説していますので、前提の知識として確認して頂ければ。
参考 個人事業主が副業をする場合の取り扱い〜事業所得か雑所得かで税額が変わります〜ソーシャル税理士金子尚弘のページこの記事では改正内容や今後の申告の注意点などについて解説していきます。
Contents
改正に至る背景
改正の背景
まず、改正の背景として昔は存在しなかった新しいビジネスが登場していることや、副業での申告が増えていることがあります。
例えばネットビジネスでは店舗も不要ですし、ホームページを持たずにSNSで集客して利益を上げている人も多くいます。また、個人の車を貸し出すことができるサービスなど、追加の投資をせずに副業を始められる環境が増えています。
このように、新しいビジネスでは過去の事例から事業所得か雑所得かを判断することが悩ましいこともありますし、副業の確定申告では税理士に依頼しない場合も多く、個人で判断しやすい基準を作ることも必要だったと思います。
【参考】国税庁の資料から、改正の背景を抜粋
シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告をしていただくための環境づくりに努めているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題がありました。
何が問題だったのか
一言で言えば「本来は雑所得の人が事業所得で申告すると税金が安くなる」という問題がありました。
事業所得であれば
・青色申告特別控除
・損益通算
が認められています。
青色申告特別控除は最大で65万円の控除があるので、その分だけ所得が少なくなり税金も減ることになります。
また、損益通算は事業所得が赤字の場合に給与などと相殺することができるので、会社員の収入に対する税金が還付されることになります。
本当に事業所得として扱うべきものであれば問題ないのですが、片手間の副業程度の人が生活費なども経費に入れて脱税まがいの行為が行われている実態があるのが事実です。
こういった行為を防止するために、一定以上の売上がなければ事業所得としないという改正に繋がったといえます。
改正の内容
今回の改正案の内容は
・社会通念上、事業と認められる規模である
という点を最初の入り口として、それを満たしたものについては
・売上金額が300万円超であれば事業所得
・売上金額が300万円以下でも帳簿が作成されていれば事業所得
というものです。
正式な通達は次の通りです。
事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
それぞれポイントを整理してみましょう。
社会通念上、事業と認められる規模である
事業所得は
・事故の計算と危険において独立して営まれているか
→リスクを取ってビジネスをしているか
・営利性や有償性がある
→利益が目的であり、ボランティアではない
・反復継続している
→単発のイベントなどではなく、継続的にビジネスをしている
・社会的地位
→お店やHPなどがあるか、など客観的にビジネスをしているか分かるか
などの要件を満たすものとされています。
つまり、事業所得に該当するかどうかは売上金額ではなく、上記のポイントを総合的に判断するということになります。
帳簿が作成されているか
国税庁が発表した通達の解説では「その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存
している場合には・・・社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多いと考えられます」と述べられています。
つまり、原則としては上記の4点を総合的に検討して事業所得かどうかを判断するのですが、帳簿が作成されていれば社会通念の判定を満たすものとして取り扱うということです。
判断の注意点
帳簿を作成していたとしても、事業所得として認められない場合もあります。
国税庁の解説資料によると
・売上が僅少な場合
・事業に営利性が認められない場合
については帳簿があったとしても事業所得と認めないとされています。
それぞれ具体的にどういうことか解説します。
・売上が僅少な場合
副業の収入が300万円以下で、本業収入の10%未満の場合が該当します。
例えば、年収800万円のサラリーマンが副業で70万円の売上だった場合には、雑所得になるということです。
なお、これは概ね3年連続してこのような状態が続いた場合ですので、たまたま売上が落ちたという場合には事業所得として認められるでしょう。
・事業に営利性が認められない場合
端的に言えば赤字での損益通算は認めないということです。
具体的には、概ね3年連続して赤字となっており、赤字を解消するための取り組みをしていない場合には雑所得になるということです。
通達の解説などを読むと、事業所得を赤字にして給与所得と損益通算をする申告について国税庁はかなり問題視していることが伝わって来ます。
本業のあるサラリーマンなどが、事業所得で連続して赤字の申告をする場合には問い合わせや税務調査などに繋がる可能性が高くなると思われます。
通達を踏まえた判断ポイント
原則的には社会通念で判断するものの、帳簿を作成していれば社会通念の判断で事業所得になると国税庁が解説をしています。
そのため、次のようなフローで判断することとなると考えられます。
注意すべきポイント
今回の改正はあくまでも通達であり、法律そのものが変わった訳ではありません。
通達は法律をどう解釈・運用するかの指針なので、事業所得の定義そのものは何ら変わりません。
専業主婦がネットビジネスなどで稼ぐ場合
最近では主婦の方が空いた時間で物販をしたりSNSでコンテンツ販売をしたりして収入を得ることも増えています。
このような場合は、物理的にお店がある訳でもなく社会的地位の判断が難しくなると思います。
そのため、
・売上金額がどの程度か
・1日のうちどの程度仕事をしているか
などを総合的に勘案して判断することになります。
「ほとんどの時間を家事や育児に費やしていて空いた時間に少し仕事をしている」という程度では雑所得と判断するのが妥当でしょう。
独立前提でビジネスを始めた会社員の場合
会社員の方であれば本業の収入はありますし、副業の売上で事業所得か雑所得か判断することが基本となります。
ただし、近いうちに独立することが確実であり、土日や夜間をほぼ自分のビジネスに投下しているような場合は事業所得として認められる可能性はあると思います。
そのような状況であれば、きちんと帳簿を作成することで事業所得として認められると思います。
まとめ
副業そのものは何も悪いことではないですし、収入源を増やすことはむしろ望ましいことです。
ただ、これに伴って節税策と称した脱税スキームが横行してしまったこともまた事実です。
今回の改正で一つ対策が打たれた訳ですが、いたちごっこのようにまた怪しい「節税策」が広まるかもしれません。
こういった話は税理士ではなく「少し税金を聞きかじった素人」が考えているもので、当然ながら問題が起きても責任を取ってはくれません。
事業所得の定義をしっかり理解した上で、正しく判断して申告するようにしてください。
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